タゴール・ソングス(原題:TAGORE SONGS/ 2020年6月1日公開)

タゴール・ソングス

今から百年後ー私の詩の葉を心を込めて読む人、あなたは誰か?
近代インドの大詩人 ラビンドラナート・タゴールが作った歌々は今もベンガルの地に響くーー
時代と文化を超えて魅力を放つ「タゴール・ソング」を紐解く音楽ドキュメンタリー

インド東部からバングラデシュにかかるベンガル地方で歌われている「タゴール・ソング」。ノーベル文学賞を受賞した詩聖、ラビンドラナート・タゴール(1861-1941)が手がけた歌は、100年を超えた現在も人々に歌い継がれている。東京外国語大学在学中にタゴール・ソングに出合った佐々木美佳監督が、詩聖の歌を継ぐ人々をドキュメンタリーに収めた。

[作品情報]

原題:Tagore Songs
監督:佐々木美佳
製作・配給:ノンデライコ
2019/ベンガル語・英語
©nondelaico

公式サイト
http://tagore-songs.com/

*COVID-19感染拡大防止にかかる緊急事態宣言を受け、ポレポレ東中野の休館が決まったため、4月の公開が延期。オンラインシアター「仮設の映画館」で2020年5月16日(土)より2020年5月16日(土)10時 から2020年6月12日(金)24時まで公開中です(延長の可能性あり)。インド、バングラデシュ向けにもオンラインにて公開。

緊急事態宣言解除により、6月1日(月)より、ポレポレ東中野での公開が決まりました(5月31日追記)。

仮設の映画館 タゴール・ソングス
http://tagore-songs.com/temporary-cinema.html

仮設の映画館  トップページ
http://www.temporary-cinema.jp/

ポレポレ東中野
https://www.mmjp.or.jp/pole2/

[監督ティーチイン]

2020年5月17日にYouTube上でティーチインを公開。撮影や出演者にまつわるエピソードが紹介された。

[関連記事、レビューなど]

▼インドの詩人が残した“タゴール・ソングス”のドキュメンタリー、4月公開
(映画ナタリー 2020年2月5日掲載)

https://natalie.mu/eiga/news/366038

▼英国植民地時代のインドの大詩人、タゴールの歌の魅力を掘り起こすドキュメンタリーが公開(映画.com 2020年2月9日掲載)
https://eiga.com/news/20200209/4/

▼インドの大詩人が残した歌を巡るドキュメンタリー『タゴール・ソングス』公開決定(2020-02-04 映画の時間編集部)
https://movie.jorudan.co.jp/news/jrd_200204_02/

▼ベンガルの愛唱歌追って ドキュメンタリー映画「タゴール・ソングス」
(朝日新聞 2020年4月10日)
https://digital.asahi.com/articles/DA3S14437556.html

▼「タゴール・ソングス」ベンガルの人が抱きしめる「信じられる言葉」/  吉田 昭一郎 (西日本新聞 2020/5/21 掲載)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/610007/

▼「インド映画が歌う」のはなぜ? ドキュメンタリー『タゴール・ソングス』オンライン配信中/ ライター:安宅直子(BANGER!!!  2020.05.23掲載)
https://www.banger.jp/movie/34281/

▼<配信>タゴール・ソングス 今も生き続ける詩聖の歌
(2020/5/22付日本経済新聞 夕刊)
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO59386670R20C20A5BE0P00/

▼ 水先案内人のおすすめ(ぴあ) 杉本 穂高/映画ライター
https://lp.p.pia.jp/shared/pil-s/pil-s-21-01_80cd8a09-e541-468a-aa74-14c2702598d6.html

[蛇足情報]

インド・コルカタのハウラー橋を渡るタクシー運転手が口ずさむインド国歌。バングラデシュ・ダッカのレコード・コレクターがターンテーブルに載せたレコードから流れる、ベンガル分割反対運動時に書かれた歌「ひとりで進め(Ekla Cholo Re)」。インド東部からバングラデシュにかかるベンガル地方で歌い継がれている「タゴール・ソング」とは何か、作者のラビンドラナート・タゴール(1861-1941)はどんな人物だったのかが、現地の人々の言葉で語られる。

カメラはインド・コルカタとバングラデシュ・ダッカを往来し、タゴール・ソングを歌い継ぐ人々の横顔を写す。コルカタ・ヴィデオズ(Kolkata Videos)のミュージシャンたち、ラッパーのニザーム・ラビ(Niazam Rabby)、バングラデシュの著名なタゴール・ソング歌手、レズワナ・チョウドリ・ボンナ(Rezwana Chowdhury Bannya)。そして、高校生のナイーム・イスラム・ノヨン、大学生のオノンナ・ボッタチャルジー、タゴール・ソングを教える教師のオミテーシュ・ショルカール等々。

ナイームは両親を亡くし路上で生活していたが、教育支援NGOエクマットラの支援を受け、住まいを得て学校に通えるようになった。「人生は辛いことだらけだったが、タゴールの物語や詩から、どう生きればいいのかを学んだ」と話す。

ナイームと同じ年代ながらも正反対の人生を送る大学生のオノンナは、ミニスカートをはいてクラブに出かけ、夜遊びを両親に咎められて、反抗する。今どきの若者の代表格的存在のオノンナもまた、タゴール・ソングを心の拠り所に生きる一人だ。タゴールがかつて日本で女子大学生に向け講話を説いたという記録を読み、当時に思いを馳せたいと日本を訪れる。

ナレーションはなく、佐々木監督はカメラの前に登場しない。タゴールが手がけた歌はベンガルの人々にとってどのような存在なのか、そしてタゴールはどんな人物だったのかが、現地の人々の言葉で紹介されていく。タゴール・ソングスの歌い手たち、カメラが出会った町の人々、ベンガルの吟遊詩人バウル。年代も、音楽の趣向も異なる人々の言葉から、ベンガルの人々にとって、タゴール・ソングが「うた」以上の存在であることをうかがい知る。

詩人、思想家、教育者など、タゴールはさまざまな分野で活躍した人物として知られる。音楽にも秀でていたのかというと、「BANGER!!!」に寄せられた安宅直子さんのテキストによれば、「伝統的に亜大陸で“詩”は基本的には歌われるもの」であったという。ベンガルの人々が歌うタゴール・ソングは、歌というよりむしろ詩吟のような存在であるようだ。

この作品を観る前に、日本語に訳されたタゴール詩を何篇か読んだ。愛の詩があれば哲学的な詩もあった。けれども文字が上滑りし、深く理解できずにいた。映画の中で、コルカタ・ヴィデオズのミュージシャン、クナル・ビシャッシュは「タゴールの言葉を理解するのは確かに難しい。誰も彼の詩の全てを理解することはできないだろう」と話す。ベンガル語を母語とする人にとっても難しい言葉を、詩が書かれた当時の状況を知らない日本人が理解するには、多くの想像力が求められるだろう。けれどもタゴールの歌に引き込まれた人々の半生を知るうちに、そして、当時の旋律で歌われる詩を聴くうちに、タゴールが編んだ言葉がすーっと浸透してくるような感覚を覚えた。

タゴール・ソングへの探究心から映画制作を構想し、熱意と行動力で作品を完成させた佐々木監督の決断には驚かされるばかりだ。タゴールが残した文化遺産やベンガルの詩歌文化を日本語で知る機会を与えてくれたことに、深く感謝したい。

  • *  *  *

作品の本筋からは離れるが、タゴールの足跡を追って日本を訪れたオノンナは、何を得たのだろうか。作品中では語られないが、オノンナが訪れたタゴール記念像の建立に携わった人物のひとり、当時、日本タゴール協会長を務めていた高良とみ(1896 – 1993)は、1916年の軽井沢でタゴールの講話を聴いた日本女子大学の学生の一人だったという。高良はその後米国に留学し、博士号を取得。帰国後は大学教授を経て戦後は参議院議員となり、タゴールとの親交を温め続け、作品の翻訳にも携わった。21世紀の今も日本は男女格差が大きい国だが、高良が生きた時代は今よりも遥かに大きかったことだろう。高良はタゴールが伝えた不戦(非戦)の精神と驚くべき行動力で、戦後、日本との国交がなかった中国やソ連との民間交流に貢献した。

それから百余年が過ぎた今、タゴールの講話を傾聴した当時20才前後の高良と同じ年頃のオノンナがタゴールに引き寄せられて軽井沢を訪れ、タゴール像を仰ぎ見る。その姿を、自身も二十代の佐々木監督が記録する。タゴールの薫陶を受けた三人の女性が重なった場面で、心が熱くなった。本筋から離れてしまうため、当然ながら高良のことは作品中では取り上げられないが、三人の出会いを思うと、若き佐々木監督がこの作品を撮ったことに運命のようなものを感じずにはいられない。

(文中敬称略)

[資料]

▼「歌の大地、ベンガル〜バウルとコビガン〜」 丹羽京子 (東京外国語大学総合文化研究所 総合文化研究第21号(2017)
http://www.tufs.ac.jp/common/fs/ics/journals/ics_flip/ics21flip/ics21flip.html

▼バウルの歌(ユネスコ・アジア文化センター)
http://www.accu.or.jp/masterpiece/04apa_jp.htm

▼Rabindranath Tagore Biographical (The Nobel Prize)
https://www.nobelprize.org/prizes/literature/1913/tagore/biographical/

▼青空文庫「ギタンジャリ」(高良とみ訳)
タゴール来日時に講演を聞き、世話係を務めた高良とみ(1896-1993)による翻訳(無料公開)
https://www.aozora.gr.jp/cards/001075/card33221.html

▼The Spirit of Japan / Rabindranath Tagore 
Amazon Kindle Edition

▼タゴール文庫(デジタルアーカイブ)/公益財団法人大倉精神文化研究所
http://www.okuraken.or.jp/tagore/

▼連載 神戸秘話 ㉓ 戦後初の女性議員 高良とみ 激動の時代に世界平和を希求した平和運動家(月刊神戸っ子)
https://kobecco.hpg.co.jp/35222/

▼ 軽井沢ニュース 2015年12月18日号
https://karuizawa-news.org/bknum/151218-148.pdf

▼ 戦後初の女性議員 高良とみ(日本女子大学)/キャッシュ
https://webcache.googleusercontent.com/search?q=cache:Qa6_Y8LavxQJ:https://unv.jwu.ac.jp/unv/about/katsuyaku/pioneer/pioneer003.html+&cd=5&hl=ja&ct=clnk&gl=jp

▼ 歴史が眠る多磨霊園
http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/K/koura_to.html

 [蛇足情報 その2]

日本でも公開された秀逸なミステリー『女神は二度微笑む』(原題:Kahaani/ ヒンディー/2012/監督:スジョイ・ゴーシュ、出演:ヴィディヤー・バーラン、ナワーズッディーン・シッディーキー)。失踪した夫を探すためコルカタを訪れた主人公の物語は、観客が予想し得なかった方向に着地し、終結する。衝撃の余韻から放心状態でスクリーンをみつめるうちに、エンドクレジットには、インドの国宝的俳優、アミターブ・バッチャンが歌うタゴール・ソング「Ekla Cholo Re(恐れず歩め)」が流れる。「心を開け 一人で歩め 恐れず、一人で歩め」(筆者訳)という歌詞は、鮮やかな復讐を遂げた主人公へのエールとして聞こえてくる。

▼マドラスのモーツァルト、A.R.ラフマーンも「Ekla Chalo」をカバー。

[タゴール書籍関連]

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