人生に必要なのは恋と音楽とビリヤニだ!
カリーム大将の魔法のレシピから生まれる美味しい物語。
[あらすじ(公式サイトより)]
裕福な家庭に生まれドバイで育ったファイジは、高級フランス料理のシェフになるのが夢だったが、お見合いの席で漏らした一言がきっかけで、料理人になることを絶対に認めない父から勘当される。やむなくカリカットの祖父の元に身を寄せた彼は、祖父の経営する大衆食堂を手伝うことになり、さまざまな人々と出会いながら成長していく。
インディアンムービーウィーク2019(主催:SPACEBOX)上映作品。
[解説(公式サイトより)]
「ウスタード」とは師匠、名匠、名人の意味。「ホテル」は大衆レストランを指す。ケーララ州北部カリカットのムスリム社会を背景に、マラバール・ビリヤニ、パロタ、スレイマニ・ティーなど、ケーララ州の名物料理の垂涎ものイメージを交えながら、青年の成長をのびやかに描く。キレのある映像美と爽やかで屈託のない語りの中に、拝金主義の否定や、西欧崇拝への穏やかな批判、弱者救済の精神といったメッセージが散りばめられる。ムスリム民謡やカウワーリーをポップにアレンジしたゴーピ・スンダルの音楽も魅力的。
▼インディアンムービーウィーク(IMW)公式ツイッターによる解説モーメントはこちら。
▼IMW公式サイト
https://imwjapan2019.com/
[作品情報]
原題: Ustad Hotel(2012年公開,マラヤーラム語)
監督:アンワル・ラシード
脚本:アンジャリ・メーノーン(バンガロール・デイズ)
音楽:ゴーピ・スンダル
出演:ドゥルカル・サルマーン(チャーリー)、ニティヤ・メーノーン(OKダーリン)、ティラカン、シッディク、マームッコーヤ
©︎Magic Frames
[蛇足情報]
舞台は南インド、ケーララ州のカリカット(コーリコード)、海辺に建つ大衆食堂の、秘伝のレシピでつくられるビリヤニ(ビリヤーニー)をめぐる青年のドラマ。裕福な家庭に育った主人公は、海外留学から帰国後、シェフを目指すことが父に知られると、家から勘当されてしまう。そして、祖父が営む海辺の大衆食堂で働き始めるうち、さまざまな人間模様を垣間見る。「ウスタード・ホテル」の名物料理は、ビリヤニ。もともとはイスラーム圏のご馳走であるコメ料理だが、主人公は祖父の言葉から、食堂のビリヤニがご馳走以上の深い意味を持つことを学んでいく。人助けに篤いイスラーム社会の人情の温かさが、じんわりと沁み入るドラマ。
マラヤーラム語映画といえば、ヒンディー語、タミル語、テルグ語、ベンガル語映画に続き、インド国内でも映画製作本数が多い言語だが、商業路線に走らず、ある種独特の雰囲気を持った作品が多い印象がある。伝説的な名作として語られてきたアラヴィンダン監督の『魔法使いのおじいさん』(原題:Kummatty/ 1979年)もマラヤーラム映画だった。日本でも映画祭において多くのマラヤーラム映画が紹介されている。
2013年の秋頃からインド人団体によるマラヤーラム映画の自主上映が始まり、インドで公開されたばかりの新作を日本で観られるようになった。インド人向け上映のため、初めの頃は英語字幕がなく、理解しきれなかった作品もあったが、どの作品もみな個性があり、新鮮な発見があった。なかでも、2014年に自主上映されたクリケット映画『1983』や若者の群像劇『バンガロール・デイズ』*は、マラヤーラム映画に抱いていたイメージが大きく変わる、爽やかな作品だった。この上映会からは、のちに上映されたドゥルカル・サルマーン主演の『チャーリー』(原題:Charlie/ 監督:マーティン・プラーカット/ 2015)が、劇場公開につながっている。
『バンガロール・デイズ』(2014)はインドでの公開時に高い評価を受け、のちにタミル語版『Bangalore Naatkal』(2016)にリメイクされた。監督のアンジャリ・メーノーン、副プロデューサーだったアンワル・ラシード、音楽のゴーピ・スンダルやメインキャストのドゥルカル・サルマーン、ニティヤ・メーノーンらが『バンガロール・デイズ』以前に顔を合わせていたのが、『ウスタード・ホテル』(2012)となる。本作は映画メディアFilm Companionが選ぶ「2010年代のマラヤーラム映画25選」にも選ばれている。
残念ながら、2019年を最後にマラヤーラム映画の自主上映は行なわれていない。上映の機に通ううちに、地味ながらも丁寧に作りこまれた数々のマラヤーラム映画の魅力に引き込まれた。インド映画の魅力は、派手なダンスだけではなく、温かな人情を伝えてくれるドラマもその一つだ。DVD化を機に、本作が多くの人の目に触れることを願う。上映会もいつか再開されることを願いつつ、休憩時に提供されるケーララのおやつの味を懐かしむ。
* アンジャリ・メーノーンが監督したのはマラヤーラム語のオリジナル作品。ムービープラスで放送されたのは、タミル語リメイクの『Bangalore Nakkal』。
・25 Greatest Malayalam Film of the Decade/ Film Companion (2019/12)
https://www.filmcompanion.in/fc-decades/pages/malayalam.html
2020年6月25日追記:アンジャリ・メーノーンの作品歴部分を修正しました。
▼本作をこれからご覧になる方に、一つ知っておいていただきたいことが。劇中、猫の悲しい場面が出てきますが、実際には撮影後も元気だったとのこと。脚本を担当したアンジャリ・メーノーンがブログに書いていますので、ご安心ください。
https://twitter.com/ImwJapan/status/1174689134675451905?s=20
[DVD発売情報]
発売日:2020年9月2日(水)
発売元:フルモテルモ
販売元:ハピネット・メディアマーケティング
提供:SPACE BOX
価格:3,900円(税別)
DVDレンタルも同日開始。